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『マルタカ』の事例メモ その14-石材補修・再生-

石材ドクター・杉本治郎『マルタカ』の事例メモ
その14 -石材補修・再生-

物件名 : 横浜市神奈川区、熊野神社の狛犬
石材材質 : 安山岩
目的 : 壊れた狛犬の修復
使用薬剤 : 酸性洗浄液
使用器具 : 高圧洗浄機、左官用具、電動カッター、ドリル、ピン、棒グラインダー
作業概要 :
1: 浮いた石の除去(再使用できないかを知るため)
 石が皮のようになり、表面に浮いている状態になっている。
 チョークで印を付け、場所名を記入して保存。
2: 高圧洗浄
 石表面、前回補修面(左官作業)を徹底的に高圧洗浄し、浮きや汚れを飛ばす(200kg圧)。
3: 補強
 取り外した石や左官作業部分に、ドリルで穴を開け、ピンを入れる。
4: 接着
 ヒビ割れや、剥離部の接着。
5: 取り付けや塗り込み
 各部位の取り付け、左官作業による塗り込み。
6: 表面加工
 カッターによる切り込みや、棒グラインダーによる表面加工。
7: 色合わせ
 今回補修面と前回補修面との色合わせ。
8: 洗い
 酸洗いと金ブラシによる、余分なセメントの除去。
一言 : 悲劇の狛犬
 1853年・嘉永6年(大獅子)飯島吉六の作。
 昭和20年、横浜大空襲による戦火を受け、その後、アメリカ軍により、ブルドーザーで近くの京浜急行の土手に埋められた。
 昭和35年に掘り出され、ボロボロの状態を、左官の名人・根門己之助氏が試作10体を作り、2年半をかけて復元した (同氏はその直後74歳で亡くなっている。まさに命をかけての修復だった)。

 その後50年。石の傷みとセメント部分のヒビや剥がれなどが発生。各方面に修復を依頼するが、誰も手を出せない状態だった。
 今回、縁あって修復を引き受けたが、元の写真や説明文書もなく、手探りでの修復となった。
 現代の名左官、秋山忠良氏と組み、設計の先生を交えた3人で協力して作業を進めた。
 足の筋肉、胸の張り、歯やコブ、爪の形、渦の形、手の表情や雌犬の乳など、いろいろ気を配りながらの作業となった。

 仕上げの着色はあえてせず、石の汚れがセメント部に浮くのを待つことにした。何年か年数が経てば、昔のように石とセメント部の違和感が無くなると考えている。
 心掛けたことは、昔の石工と二人の名人左官の跡を残すことであったが、石の部分が2~3割くらいしか残っておらず、全体のヒビ割れのために脆くなっており、大部分を接着セメントで覆う形になってしまった。

エピソード:  最初の依頼では「落ちた顎や渦などを取り付けて欲しい」との話で、気軽に引き受け、10日間との約束で、秋山氏と取り組んだ。
 表面を高圧洗浄するまでは、前回の左官の仕事が石と一体化しており、名人の仕事とはかくあるものかと感銘した。
 全体に安山岩がヒビ割れ、破損部が無数にあり、補修後の剥離、高圧洗浄後に全体にわたる剥離があることなども判り、直していけばいくほど、いろいろ手を掛けなければならないことになってきた。
 また、天候不順で雨にもたたられ、雨の無い時間を見計らい、早朝3時頃から作業したこともあった。

 狛犬は、雄雌の体の渦が左右対称であり、複雑な作りになっている。そのため、左官の秋山氏、加工の私と、それぞれが自分担当の仕事の最中に声を掛けられると気が散るため、お互いに怒鳴りあいながらの緊張した現場となった。
 そんなことがあって、作業が終了した時は、二人で心から喜ぶ仕事となった。
 また、設計の先生をはじめ、いろいろ気を使っていただいた神主さんや神社総代の方々、ご近所の方々に心から感謝しております。

 この仕事は、2009年7月末に作業終了しました。
 なお、この狛犬は、日本で最大級の大きさではないかということです。
 神社にお参りかたがた、その最大級の狛犬をご覧になって下さい。


高圧洗浄

切り込み

左官作業

仕上り


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