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農薬問題とポリッシュ工業会

メンテナンス情報
農薬問題とポリッシュ工業会

著 木村光成 先生

 ポリッシュ工業会から、下記の文(『ぐんまフォーラム 有機リン問題の最前線』)が回覧されている。
 この通り、殺虫剤に対する反対論は、より厳しくなっている。最近販売されている「凍らせて殺す殺虫剤」の販売も、この傾向の表れといえる。
 ペストコントロールに対する風当たりはもちろん。ワックスや合成洗剤に対する風当たりも、厳しくなっている。特に学校関連での、ワックス・洗剤の使用に関しては、より厳しい状況にある。また、内閣総理大臣に対し、有機リン使用禁止の要望書が出されている。また、他の団体では、樹脂ワックス、床用合成洗剤禁止論も出ている。

 このフォーラムについては、農薬工業会が見解を表明している。
 しかし、ビルメン業界では、これ等の問題に対する業界の見解は、全く伝わってこない。
 塩ビ床材に関しても、東リなどでは明確に見解を発表している。このような流れの中で、石鹸、電解水、光触媒の売込みが活発化している。
 学校関係では樹脂ワックス使用禁止を言い出す人もおり、特に個人住宅でこの傾向が強い。ビルの場合でも、ワックスのバフによる微粉を問題視する向きもある。この根拠は、10年前のアスベストタイルの艶出し研磨による、アスベストの飛散データと思われる。
 現場では、樹脂ワックスと合成洗剤は「悪である」との考えが強い。何よりも、宣伝広告の量が桁違いである。ビルクリーニングの入居ビルでは、ビルクリの光触媒の広告を見たビルオーナーが「20年間効果を見込める」との宣伝に感激して、全面光触媒施工を行っている。それから約3年になるが、現場を見ていただければ、その効果が判定できるはずである。
 問題は、今回の情報に対し、ポリッシュ工業会が、どのように見解を表明するかであるが、週間金曜日と同じで何もしない可能性が高い。

 いずれにしても、風当たりは、はじめに現場に来る。
 この『ぐんまフォーラム』に関する見解発表は出来ないにしても、ワックス、合成洗剤を使用しないで、電解水、石鹸、光触媒のみの使用で、現在の床品質を維持できるかどうかの情報を、現場に表明することだけでも出来ないだろうか。
 今回も、農薬工業会の影に隠れての物言いでは、現場の風あたりは弱まらない。

 筆者は、ビルメン現場にとって、樹脂ワックスと合成洗剤は必要不可欠と考えている。
 そこで、2回ほど樹脂ワックス必要論をネットに掲載したところ、とたんに抗議のメールが流れてきた。
 やはり、この問題に取り組むのは、ビルメン関連協会以外にない。取り組みができないなら、これ等の情報を、ビルメン現場の立場に立って解説して、現場に流す必要がある。
 先ごろ環境庁の発行した、洗剤と化学物質にしても、ビルメン現場の立場での解説をつけて流す必要がある。ほとんど解説なしで掲載している例がほとんどであり、中身を読んでいるかどうかすら疑わしい例もある。
 ビルメン現場の足を、ビルメン業界が引っ張るのだけは、避けてもらいたい。

 この業界の特徴は、関連人員に対し、雑誌、新聞の発行部数は余りにも少ない。また、社内誌にしても、業界情報が余りに少ないことにある。各社にとって最も重要な、「現場の管理会社への対応力」「安くて品質の良い資材の選択」「クレーム情報」などが、全く流れていない。
 これではインスペクションを行っても、現実的な対応が出来ない。
 クレーム対応のないインスペクションは、品質の低さを証明するだけの道具になる。
 現場への情報は、資材業者の情報だけなのが現状である。
 樹脂ワックスや合成洗剤の必要性と共に、危険性への対策を明示して、各現場の責任者が、ビルオーナーや管理会社を説得することが、最も効果的である。そのためのバックアップが必要であり、このことが全くなされていない。

注:
 『ぐんまフォーラム』の影響はかなり広がっている。
 ビルメン現場は自然にやさしいが、高くて汚れの落ちない洗剤を使わされるに過ぎない。
 結果はメンテナンスの品質が落ちるだけである。


以下関連資料
 1:内閣総理大臣宛要望書  有機リン化合物の健康被害に対する早急対策のお願い。
 2:市民団体資料多数。


ポリッシュ工業会配布資料
『ぐんまフォーラム in Tokyo』 「有機リン問題」の最前線

 このフォーラムは、2007年5月12日、約1000人の参加を得て、東京のヤクルトホールで開催された。会場は立ち見が出るほどの盛況であった。

 群馬県では、平成18年6月に、日本では初めて無人ヘリによる有機リン系農薬の、散布の自粛要請を行った。
 このフォーラムでは、この要請の背景、有機リン化合物の毒性についての専門家の講演が行われた。

 プログラムは下記の通りである。
 ・主催者挨拶:小寺弘之(群馬県知事)
 ・基調講演
  (1)有機リンの空中散布による健康被害-臨床現場からの報告-
      :青山美子(小児科医師)
  (2)有機リン系農薬の医学的評価
      :坂部貢(北里大薬学部公衆衛生学教授)
  (3)有機リン系化学物質の毒性-化学兵器から殺虫剤まで-
      :杜祖健(コロラド州立大名誉教授、千葉科学大客員教授)
 ・パネルデイスカッション
  上記講師3人、木村博一(国立感染症研究所感染症情報センター)
  コーデイネーター:小澤邦壽(群馬県食品安全会議事務局長)

 主催者挨拶で小寺知事は、今回の散布自粛要請が、自宅ポストへの投書がきっかけで行われたこと、要請が県内の農業あるいは農家への負担にならないことを関係者との協議で確認した上で行ったこと、を説明した。

 講演1では、先ずDVDが上映され、有機リン散布被害者の症状が紹介された。
 被害者は皆実名で、病院で激しく咳き込み話もままならないお年寄り、点滴中の主婦、学校で歩けなくなり先生に助けられて病院に行く子供の様子など、全て実名で、顔も大写しで紹介された。
 患者のプライバシーの問題があるのに、このような状況が公開されるのは、極めて異例のことである。
 散布自粛後、患者数は減少してきたとのことであった。

 講演2では、現在使用されている有機リン剤が、サリンなど、戦争で使われた化学兵器としての毒ガスと同じ有機リン化合物であり、作用機構も同じコリンエステラーゼ阻害であること。有機リン剤には、急性毒性のほかに、微量反復曝露による慢性毒性があること。胎児あるいは新生児の時期に有機リン化合物に曝露されると、成人後に影響が出る恐れがあること。などが、欧米の文献を引用して説明された。
 米国カリフォルニア大キャッシダ教授の論文も引用されていた。
 この論文には「パラチオンの活性本体であるパラオクソンには、遅発性神経毒性は見られなかった」と書かれているのだが、演者はこれを無視し、全ての有機リン殺虫剤にはこのような慢性毒性のリスクがあるとの説明であった。
 さらに驚いたことに、現在使用されている農薬には、慢性毒性、変異原性、吸入毒性試験は、必ずしも義務付けられていない、とのことであった。これは明らかに事実誤認であるので、パネルデスカッションでの質問用紙に記入したが、取り上げられなかった。

 講演3では、サリンの毒性メカニズム、有機リン剤がサリンと同じ作用機構を有すること。パムがサリンや有機リン殺虫剤中毒の解毒に有効なメカニズムなどが詳しく説明された。
 さらに、地下鉄サリン事件の被害者の症状、特に瞳孔反応が、有機リン殺虫剤中毒と同じであること。聖路加病院でのサリン被害者の様子などが、スライドで説明された。
 又、米国では、空中散布に際しては付近住民への通知、ドリフト緩衝帯の設置など、安全面に十分な配慮が行われているとのことであった。

 以上の講演から、今使われている有機リン剤は、サリンと同列の有毒物質であることと、特に、これらの剤が無人ヘリで通常の100倍もの高濃度で散布されることは、サリンと同じように危険であることを強調したい主催者の意図が読み取れた。
 パネルデイスカッションでは「無人ヘリ散布の自粛が、何故他の府県でも行われないのか理解に苦しむ」との発言があった。また、欧米では日本と異なり、ほとんどの有機リン殺虫剤が使用禁止あるいは使用の大幅な制限が行われているとの話もあった。

 急性経口毒性に関しては、サリンは、今使われている有機リン殺虫剤の、恐らく何万倍も毒性が強い。そのことには全く触れずに両者を同列に扱うとは、随分乱暴な話である。
 有機リン化合物は、ヒトを始め、動物体内でエネルーギー代謝などに非常に重要な働きをしている。リン原子を含むだけで『有機リン』と、ひとまとめにするのはおかしい。
 しかし、このフォーラムでは、そのような説明は一切なかった。恐らく満員の聴衆は(主婦らしい人も多かった)、有機リン殺虫剤の恐怖を感じたことであろう。

 今回のフォーラムには、農薬工業会、行政のOB、農薬ジャーナリストにも講演を呼びかけたが、全て断られたとのことであった。農薬の使用者側からの講演も無かったのは、残念であった。
 ポジテイブリスト制度に対する対応のためもあって、無人ヘリによる共同散布が減り、農薬散布を自分で行わなくてはならない高齢農家が、農業から離脱するケースが出ているという。群馬県ではこのような農家は見捨てられるのであろうか。

 確かに、このフォーラムはかなり意図的であり、一方的である。
 しかし、無農薬を提唱しているわけではなく、有機リン殺虫剤の高濃度散布に限って自粛を求めている。
 このようなフォーラムが、大勢の人を集めて首都で開かれた以上、農薬工業会、行政は無視することはできないであろう。
 当面の対策としては、高濃度吸入試験法の確立(現在の吸入試験法は、高濃度散布には対応していないと考えられる)、米国で行われているようなREI(立ち入り制限期間)の製剤毎の設定、ドリフトがより少ない散布法の開発、その上での無人ヘリ散布用農薬の制限が必要となってこよう。
 有機リン系殺虫剤は効果が高く、しかも安価なので、害虫被害の多い日本の農業では重要な薬剤である。しかし、新しい作用性の殺虫剤も開発されているので、ある程度までは、有機リン剤と置き換えることは可能と思われる。

2007年5月15日

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