19年度 第6回こころみの会
19年度 第6回こころみの会 実施日:2007年12月13日 会 場:ジョンソンディバーシー株式会社 主 催:こころみの会 講義1:『すべりの研究』 講義2:『ノロウイルスについて』 講義3:『床材におけるメンテナンス方法』 講義4:こころみの会製作 『一目でわかる清掃の基本』 講義5:『ISSA INTERCLEAN』視察報告 |
講義1:『すべりの研究』 東北大学工学部教授 東京工業大学名誉教授 小野英哲 先生 何らかの理由で体制を崩し、怪我や骨折、悪くすれば命に関わる転倒事故。毎年、転倒事故によって、多くの人が亡くなっており、そのうち半分くらいは、足元の”すべり”に起因するものと予想されます。つまり”すべり”を研究することは、安全のために重要なことなのです。 この日最初の講義は、”すべり”の研究における第一人者である小野先生から、先生の研究について、様々なお話がありました。 最初は、先生が研究しているのは、あくまでも”すべり”であるというお話です。 先生が提唱するまで、すべりの現象は”床面と履物との摩擦”を基に考えられていたそうです。 しかし、摩擦とは平滑面同士が擦れあう場合を示すものであり、一方で、すべりは凹凸の有る面で生じる現象であり、さらには床面と履物の摩擦、床面の凹凸と履物の凹凸の噛みあい、両面の間に介在する物質、さらには歩行者の力の入れ具合によっても変化する現象であって、とても摩擦の理屈だけで説明できるものではありません。 そういった視点から、先生は、”すべりの研究”を、摩擦を基に考えるのではなく、”すべりという現象”として研究することで道筋をつけ、”すべり抵抗”を提唱するに至ったそうです。 この話の中で先生は『現象に素直になる』という言葉が重要であると、おっしゃってました。 次に先生の開発した”すべり試験器”『O-Y・PSM』と、携帯型の『ONO・PPSM』についての説明がありました。 これらは、試験対象となる床面に触れたすべり片(試験対象となる履物の前半部分を固定した試験片)が動き出すまでの、荷重や時間曲線などからすべり抵抗係数[C.S.R]という値を算出することができる装置で、”すべり片”にかかる荷重や床面への接触状況が、人間の歩き出し動作を再現するように設計されています。 その一方で、理屈だけで計ることのできない”すべり”を、先生や研究室の学生さんたちが実際に転倒しながら研究したそうです。これは官能検査手法といって、要するに実際に人が体験した印象に基づく記録研究ということです。 こうして”すべり試験器”によって求められたC.S.Rのグラフと、官能検査手法に基づいて作成された感覚尺度のグラフを比較すると、両者はほぼ近似で重なっており、これは、小野先生開発の”すべり試験機”が、人間の歩行を対象にした、すべり抵抗の測定装置として、妥当性のあることが証明されたことを意味します。 現在、国内外に何種類かの”すべり”を計測する装置があるそうですが、上記のように人の感覚をも考慮した上で、実践的に計測値の妥当性を証明したものは、他に存在しないそうです。 続いて、試験器によって得られる数値の評価指標となるマスターカーブというものが紹介されました。 これは『床面』『履物』『歩行者の性別』『歩行状況(駆け出しや急停止など)』をサンプルにした、試験結果の一覧です。個々の試験結果は、官能検査手法による感覚尺度を7段階(非常に安全、かなり安全、やや安全、どちらともいえない、やや危険、かなり危険、非常に危険)に分けたものを”縦軸”、試験器によって求められた[C.S.R]を”横軸”にした、曲線グラフになっています。 当然、履物や状況によってグラフは違う曲線を描くのですが、おおよそ横軸半ほどに頂点を持つ山状の曲線となっています。 これは、すべり抵抗値(横軸の値)が小さいと、当然、足元がすべり易く、危険と判断され、一方で、すべり抵抗値が大きすぎると、逆に”つまづき”が生じて、やはり転倒の原因となることを意味しています。 このマスターカーブにおいて、あらゆる履物と状況で、誰もが「非常に安全」という数値はありえません。ですが、おおよその検査結果で「どちらとも言えない」と評価される範囲にC.S.Rの実測値が収まっているならば、その床面は「おおよそ安全」であると判断できそうです。 こういった先生の研究成果を基にして、全国の都道府県などでは、それぞれ独自にC.S.Rの基準値を条例などに盛り込んでいるそうです。 しかし、その一方で小野先生は、先生自身の見解による”すべり”の許容値や推奨値は設けていません。それは、特定の値を設けると「メーカーからメンテナンスまで、あらゆる業界が、悪い意味で右倣えの状況になってしまうことを恐れているから」だそうです。 この”悪い意味で右倣え”とは、おそらく『その値を満たせば良い』として、実際の現場の状況が無視されてしまうということでしょう。 このほか小野先生の講義では、「見た目の印象と試験器の値はバラバラで、”すべり”において、いかに目視による予測がアテにならないか」という話や、現在取り組んでいる研究課題の紹介がありました。 以下に紹介された研究を列挙します。 (イ)摩耗とすべり 床材やコート剤など、世間には様々な”すべり防止”が存在するが、経年による摩耗によって、これら効果が失われてしまう。 この現象についての研究を進めて、将来的には、試験対象に負荷を与える”摩耗試験機”を作成して、「施工から何年後に危険になる」といった予測ができるようにしたい。 (ロ)ピンポイントのすべり マンホールのフタの凸部分など、地面(床面)のなかでも限られた極小面積での、すべり現象について。 現在、専用の試験機を研究開発中。 (ハ)姿勢保持とすべり 風呂場や洗面所などで、転倒防止の手摺りなどを設置することがあるが、身体を洗っている最中に足を滑らせた場合など、現実的にはあまり役に立たない。 そんな時に、壁面のどこを触っても身体を支えられるようにならないだろうか。 (ニ)ペットのすべり 犬や猫など、ペットを飼う環境における足場研究。 すべりが原因となって、ペットの足腰に障害が出ることがあり、これが様々な疾患や寿命にかかわってくる。 ペットを亡くすことは、特に高齢者には精神的なダメージになるので、間接的には人のためにもなる研究。 (ホ)その他 最後に、先生は”すべり”について「常に同じ状態ではありえず、、瞬時に変化するもの」「人の安全の問題なのだから、常に適切な状況判断をして欲しい」と、提言されていたことを挙げて、この講義紹介を終わります。 参考: Googleにおける”すべり試験器”&”小野英哲”をキーワードとした検索結果 |
参考: ジョンソンディバーシー株式会社 『らくらく汚物処理キット』 |
講義3:『床材におけるメンテナンス方法』 複合フローリング市場における傾向とメンテナンス上の問題点 株式会社リンレイ 片岡 氏 最近のフローリング製品の変化と、それにともなうトラブルの発生と対策について、ワックスメーカーの視点での解説がありました。 ここ数年で、複合フローリング製品には、内側にも外側にも、様々な変化が起きているそうです。 まず内側、板そのものの材質が変化しました。 かつて広葉樹だった合板の材料は、資源の枯渇によって針葉樹になり、さらには成長が早い植林木の針葉樹が主流になりました。 ところが、針葉樹の木質は広葉樹よりも柔らかく、植林木ならさらに柔らかいのです。 そして外側では、板材の表面塗装が”ウレタン塗装”から、表面が硬く傷に強い”UV塗装”に、さらに硬い”高硬度UV塗装”へと、どんどん硬く変わってきました。 結果的に、中身の素材は柔らかく、表面の塗装は硬くなってきたことになります。 こういったフローリング製品の性質変化、特に硬い表面塗装によって、いろいろなトラブルが起きるようになりました。 いずれも主な原因は、ワックスの密着不良と水の存在です。 表面塗装の変化によって、従来のワックスでは密着不良が起きるようになりました。密着不良のワックスと床面の間に水が入り込むと、白化や剥がれなどのなどのトラブルが発生します。 トラブルの生じたワックスは、剥離するしかありません。ところが、剥離作業で使用した水がフローリングの板材に入り込むと、今度は板材そのものを変形させ、しまいにはフローリングの貼り替え、そして賠償ということになるかもしれないのです。 どうしても剥離しなければならない場合は、作業による影響の有無を確認しておきましょう。 ノーワックスを謳ってる製品でも、経年によって傷などが増えてくると、ワックスを使う必要が出てきます。 ワックスを塗布する前には、対象となるフローリングの性質を十分に調べて、材質に適合するワックスを使用しましょう。 ここで他の場所と兼用で汎用ワックスなどを使用していてトラブルになった場合、作業対象に適合しない、たとえば木床用ワックスを使っていなかったら、それで裁判に負けるかもしれません。 また、家庭用のフローリングは、床面と顔が近くなることがあるので、傷や汚れが目につきやすく、ちょっとした糸くずなどがクレームの原因になることがあります。ワックスを塗布の段階で、作業方法や道具にも注意が必要です。 ワックスの密着不良によるトラブル
ワックス塗布作業によるトラブル
ワックス剥離作業によるトラブル
ワックス塗布のポイント
日常作業のポイント
最後に『フローリングサンプルキット』と木質床専用ワックス『ハイテクフローリングコート』の紹介がありました。 『フローリングサンプルキット』は、様々なフローリング床材の試験片と資料のセットで、作業前にワックスの適合を試したり、水の影響の有無を確認するのに便利です。 『ハイテクフローリングコート』は、問題になっている、高硬度塗装への密着不良と、水が入り込むことによる影響に対応するためのフローリング専用ワックスです。 『ハイテクフローリングコート』の特徴
参考: 株式会社リンレイ 『ハイテクフローリングコート』 |
講義4:こころみの会製作 『一目でわかる清掃の基本』 ジョンソンディバーシー株式会社 こころみの会 宇田一男 氏 こころみの会で製作した、新しい清掃マニュアルの紹介がありました。 清掃作業の基本から、豊富なイラストを用いて、解りやすく丁寧に解説されており、また、模範的な例と共に「特に注意すべきこと」「してはいけないこと」が、具体例を挙げて紹介されているのが特徴です。 基本作業のテキストとして、一冊いかがでしょう? 参考: こころみの会 |
講義5:『ISSA INTERCLEAN』視察報告 加藤産業株式会社 加藤正志 氏 オークランドで開催された、ビルメンテナンスの国際イベントの視察報告がありました。 |