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実験セミナー第1回 カーペットの判別

2005年11月25日 実施
BMIX実験セミナー 第1回『カーペットの判別』   

講師:木村光成 先生
会場:ジョンソンディバーシー㈱ フロアラボ

ビルメン現場におけるカーペットの現状
カーペットの分類
カーペットにありがちなトラブルと発生原因
判別セットの内容
判別(実験)手順
その他、カーペットで起こりやすいトラブル



ビルメン現場におけるカーペットの現状

 現状、ビルメンの現場で遭遇するカーペットは、その9割がナイロンのタイルカーペットです。
これはとても扱い易い品で、基本を守って作業していれば、そうそうトラブルは発生しません。その一方で、それ以外の1割については、あまりに知識が不足しています。扱い難い品に遭遇したとき、そうと知らずに扱い易い品と同じ薬品や手法で作業してしまうのですから、トラブルの発生は必至なのです。

しかも、最近のカーペットには、ビルメンにとって不利な条件が増えつつあります。
ひとつは、品質よりデザインが優先されていること。
たとえば、ハイローカーペット(染色ではなく、繊維の高低差で模様を描く)の流行で作業し辛くなっていることや、1枚のカーペットに使われている色数が増えたことで、色落ちの危険が増していることが挙げられます。

そして、もうひとつは、世間一般に流布する天然成分志向と、薬品の規制強化です。
いくら安全性や無害であることを唱った薬品でも、効果が期待できないのでは、それだけで経済的に有害です。それなのに、現場では、メーカーの意向や入れ知恵で、これらの使用を求められるかもしれません。

こうしたカーペットの多様化や状況の変化に対応するには、ビルメン側にも知識が必要です。 
作業対象について正確な知識を持っていれば、理路整然と指定された作業方法の不適切を説明し、適切かつ効率の良い作業方法を提案することもできます。一方で、カーペットメーカーにメンテナンスについて訊ねても、あまり有効な情報は期待できません。通常、自社製品の弱点について語ることは無いからです。

強力な薬品ほど効率が良い
どんな薬品や洗剤にも、必ず得手不得手、利点と欠点があり、万能な物は存在しません。
もし仮に「どんな素材に対しても無害な薬品」が存在するならば、それは同時に「何ひとつ効果を望めない薬品」だと考えるべきでしょう。これは医薬品にもいえることで、「効く薬ほど、毒性や副作用も強い」のです。
逆にいえば、害を及ぼしかねないほど強い薬品は、効果の期待できる薬品でもあるのです。
作業対象に問題を起こさない範囲内であれば、許されるかぎり強い薬品を用いることで、作業効率を上げることができるでしょう。

でも、どこまでが許容範囲なのでしょうか?
それを知るためには、やはり作業対象への知識と研究が必要です。




カーペットの分類

作業対象になるカーペットの、種類、カット方法、繊維成分について、それぞれ一般的な分類と、分類ごとの作業難易度を示してみました。
あくまで作業難易度は一般論なので、現場での施工状況によって実際の手間や難易度は変わってきます。

作業対象の簡易分類
簡易分類 施工例
絨毯 (段通) 中敷き
アキスミンスター グリッパ
ウイルトン グリッパー
シャギー 中敷き
タフテッド グリッパー
タイル ピールアップ
ニードルパンチ 接着

簡易分類に対する作業難易度
アキスミンスター>ウイルトン>シャギー>タフテッド>ニードルパンチ>タイル


テクスチャー(カット)による分類
中分類 小分類 注意点
カット
(繊維が上端で
切断されているもの)
ブラッシュ 一般的
ベロア 起毛クレーム
サキソニー 一般的
ハードツイスト 少ない
シャギー 白物が多く、クレームになりやすい
ヘアー  
ループ
(繊維が丸くなって途中で
切断されていないもの)
レベルループ タイルカーペット
マルチレベルルー バキュームがかけにくく、メンテの負担が大きい
ハイロウループ バキュームがかけにくく、メンテの負担が大きい
カット&ループ
(上記2種の混合)
ハイカットロールループ  
レベルカット&ループ  
フラット フエルトタイプ ニードルパンチ
織りタイプ  

テクスチャーによる作業難易度
カット>レベルループ>ハイローループ>フラット


繊維成分の分類
繊維の分類 危険性
ウール アルカリ洗剤、縮み、変色、次亜塩素酸ナトリウム、湯による収縮
ナイロン6 アルカリ洗剤、酸性洗剤、次亜塩素酸ナトリウム
ナイロン66 ナイロン6よりは危険が少ない
ポリプロピレン 焼きつき、耐熱120度、耐洗浄性大
アクリル 汚れやすい、耐洗浄性大
ポリエステル 汚れやすい


汚れ易さ
アクリル>ナイロン>ポリプロピレン>ポリエステル>ウール

汚れの落ち易さ
ウール>ポリエステル>ナイロン>アクリル

上記だけを見ると「ウールは汚れにくく洗いやすい」という良好な位置を占めることになり、扱いやすいような印象になりますが、これは作業方法によらない一般比較であって、実際に繊維成分の分類による作業難易度(クレームの起きやすさ)を表すと、以下のようになります。

繊維成分による作業難易度
ウール>ナイロン6>ナイロン66>ポリエステル>ポリプロピレン>アクリル




カーペットにありがちなトラブルと発生原因

 カーペットのトラブルで代表的なものは変形です。
変形には「縮み」と「膨らみ」、そして縮みによる「割れ」「裂け」などが挙げられます。
このうち特にありがちな「縮み」はカーペットの濡らしすぎが主な原因で、乾いてしまえば修正できる可能性があります。しかし、縮みが「割れ」「裂け」に発展した場合、修正はほぼ不可能です。

作業現場が狭ければ、1メートルあたり数ミリの縮みが発生したところで影響は目立たないでしょう。でも、たとえばホテルのロビーや宴会場などの広域に敷かれたカーペット全体で、1メートルあたり数ミリもの縮みが発生したら、どうなるでしょう?
部屋の隅や壁際で数十センチも床板が露出するかもしれませんし、もし周囲を固定されているならば、部屋の中央でバリッと引き裂かれてしまいます。もしくは「割れ」「裂け」まで発展しなくても、ラインやボックスパターンなどの規則正しい模様のカーペットに歪みが生じれば、とても見栄えの悪いことになってしまいます。

ナイロンのタイルカーペットなら、たいてい裏地が塩化ビニールでコートされているので、こういったトラブルはあまり心配ありません。しかし、アキスミンスターやウイルトンなど裏地がビニールではない品、またはコストダウンのために裏地のビニールを薄くしてしまった品などの場合、洗浄に大量の水を用いることで、裏地に水が染み込みトラブルの原因になります。表面素材と裏地素材の張力の差から、トラブルが「膨らみ」「波うち」などの形をとるかもしれません。
このような危険が有る場合、作業中は足下の感触の変化など、常にカーペットの張り具合に注意しましょう。そして変形の初期段階で気づくことができたら、すぐにグリッパーを外すことで被害を縮小できるかもしれません。十分に乾燥を待ってから修正しましょう。


洗剤による色落ち、色泣き(色落ちして流れだした染料が、周囲の繊維を染めてしまう)など、繊維の染色不足によるものも考えられます。
染色には、先染め(原着)、後染め、オーバープリントという分類があり、この分類による脱色の危険度は「オーバープリント>後染め>先染め」の順になります。繊維を織りあげる前に染色した先染めに比べ、後染めは染色が弱いのでトラブルが多くなります。特にオーバープリントは後染めの最たる物で、印刷物と同様、淡色のカーペットの上から濃色や模様を吹き付けているだけなので、色落ちの危険度も最高になり、注意が必要です。


(↑)オーバープリントの例 毛足の上下で染色が異なる。


(↑)同型バキュームによる吸い込み口のサイズ違い。
 汚れが原因となるトラブルに、土砂の汚れを繊維が取り込んでしまう「獣道」が挙げられます。その原因としては、洗浄不足で汚れが取りきれていないことや、バキュームの吸引力不足が考えられます。

繊維から確実に汚れを除去するためには、吸引力は最低2.0Kpaは欲しいところです。しかし、最近のバキュームには吸引力の表示がないものや、予定の吸引力が発揮されていないものが数多くあります。または整備不良で吸引力が低下している場合もあるので、定期的にチェックするようにしましょう。

バキュームの吸引力については、機械部本体が同じ規格のバキュームでは、吸い込み口のサイズが大きいほど単位面積あたりの吸引力が低下することを考慮しましょう。また、海外製品では、本来の120v電圧で使えば強力な製品であっても、日本の100V電圧で使用しているために、カタログ通りの能力を発揮できていない可能性もあります。

汚れが原因のトラブルには、溶けだした裏地や汚れが表面の繊維を染めてしまう「吸い上げ」という現象もあります。
特に問題になるのは、洗剤に含まれる溶剤成分の影響でカーペットの裏地(バック)が溶けてしまう状況です。裏地がジュートなのを知らずにアクリル洗剤で洗浄した場合や、ビチュームなのを知らずに油性シミ抜きを使った場合に発生し、深刻な結果になってしまいます。

この他に、少し珍しいものにポリプロピレンの焼きつきがあります。
ポリプロピレンは熱に弱いために、強い摩擦をかけると摩擦熱で溶解して痕を残してしまいます。また、発熱する機材を長時間上に置くと、やはり痕が残ってしまいます。こうなっては、もはや修正する術はありません。繊維が溶解しているのですから。




判別セットの内容

今回の実験で使用した機材と薬品を紹介します。
こういった品を、薬品ならミニボトルに入れるなどして携帯できるようにすれば、現場で手軽に作業対象の判別を行うことができます(とはいえ、薬品の中には少々危険な物も含まれているので、持ち運びには十分ご注意ください)。

特に写真左上の青いプラスチック製小容器は、いろいろな薬品や洗剤のテストに使えるので、やや多めに用意しておくと便利です。蓋ができる品であれば、さらに扱い易いでしょう。

実験機材
判別テスト容器、ろ紙(容器内にいれる)、ph試験紙、
ph値判別表、ライター、スポイト(パスツール1cc)、
ピンセット、サンプル採取用のニッパーまたはハサミ
※さらに顕微鏡があれば理想的

試験用薬品

ウール判別液
(苛性ソーダ)

アクリル判別液
(ジメチルフォルムアミド)

ナイロン判別液
(塩酸)

精製水

前処理判別液
(油性シミ抜き剤)

標準洗剤
(ラウリル硫酸ナトリウム)




判別(実験)手順
まずはカーペットを捲って裏地と毛足を確認
メーカー名などの裏書きがある場合、それは規格品なので、情報を集めやすく、安心感もあります。しかし、何も書いていない場合は規格外品なので注意が必要になります。

次に毛足のチェックをします。
ここで繊維の上下で色の違う場合はオーバープリントなど染色の弱い製品なので、色落ちや色泣きに注意する必要があります。


資料の採取
必ず目立たない場所から、良く切れるニッパーなどを使って採取しましょう。切れ味の悪い道具を使うと、毛足を引きちぎってしまったり、最悪、繊維がズルズルと解けてしまいます。
色数が多い場合や、複数の繊維が混入している混毛製品の場合は、最も弱い繊維を基準にして作業方法を考えねばなりません。もしも多色染めのカーペットなら、その全ての色についてサンプルを採取してください。


顕微鏡での確認
顕微鏡があれば、採取した繊維を観察することで判別することができます。
もちろん判別するには、どの繊維がどのような状態なのか前もって知っている必要があります。しかし、ウールは原料が動物の毛ですから、人の毛髪と同じような鱗状になっているので容易に判別できるでしょう。


燃焼試験(ウール/その他 の判別)

写真にある2枚の布は、一枚はナイロン製のニードルパンチで、もう一枚は毛氈(ウールを固めたフエルト)です。見た目や触感は似ていますが、ナイロンとウールでは全く難易度が違いますから、判別が必要になります。
そこで、それぞれの布からサンプルを採取して、ライターの炎であぶってみると、一方は独特の臭いを発し、もう一方はベタベタに溶けてしまいました。

ここからウールは前者であることが判別できました。ウールは独特の臭いがするので判別が容易です。現場で判別するスタッフが、事前に実験を行ってウールの焼ける臭いを知っておくと良いでしょう。
一方で、今回は後者がナイロンだと判っていますが、これがアクリルかナイロンか判っていない場合、臭いだけで判別することはできません。そこで薬品試験を行います。


薬品試験(ウール/ナイロン/アクリル の判別)
採取した繊維のサンプルを小容器に入れて、それぞれにウール、ナイロン、アクリルの判別液を注ぐと、それぞれ対応する繊維が溶解します。もし複数の判別液で溶解が起きるようなら、異種繊維を混毛している疑いがあります。


実験では3点のサンプルに対して薬品試験を行いました。特にナイロン素材のサンプル(下段右端/元はチェック柄)では、見た目には無かった赤い色が出ていますのが判ります。

薬品試験の結果:左からウール・アクリル・ナイロンの判別液を入れた状態。

その他の薬品試験

撥水剤残留テスト
カーペットの表面に精製水を一滴垂らすだけで、撥水剤の有無と残留状態を知ることができます。
カーペットに撥水剤が残っていれば汚れが付きにくいのですが、洗浄の影響などで撥水剤の効果が残っていないことが考えられます。また、元は同じ製品だったとしても、ロットの違いや設置場所の違いで撥水剤の残留程度が違うことも考えられます。この場合、全面を一律の手順で作業しても、仕上がりに差が生じることもあり、これもクレームの原因と成り得るので注意が必要です。

(左)サンプルカーペットの上に精製水を垂らしてみる。
(右)手前は撥水剤が残っているので精製水が玉状になっていますが、奥は水が染み込んでいます。

ビチュームの溶解実験
ビチュームバックの断面を前処理判別液(油性シミ抜き剤)で拭ってみると、簡単に裏地が色落ちしました。
これらビチューム(アスファルト)は、それと知らずに油性シミ抜きなどを使うと、裏地から色が染み出て真っ黒になってしまう「吸い上げ」事故を起こしてしまいます。
通常の現場では数が少ないものの、ビチュームには耐水性が強いという利点があるために、今でもフィットネスクラブなどで用いられています。ご注意ください。


洗剤の影響試験
ある洗剤を使用したいが、カーペットに影響を与えないだろうか? それを判別するために実験を行いましょう。
判別テスト用容器の底に"ろ紙"を敷き、サンプル繊維とテストしたい洗剤を入れます。そのまま24時間放置して、色落ちや溶解などが起きていないか影響をチェックします。
この時、容器にろ紙を敷くのは、染料の流出を目視し易くするためです。




その他、カーペットで起こりやすいトラブル

パーティション境界の濡れ
室内をパーティションで区切られたオフィスなどで、境界向こうにカーペットがあるのに気がつかないまま水を大量に使うと、パーティションの下端から染み込みが発生して事故の原因となります。

残留洗剤による発泡
メンテナンス作業後のカーペットに精製水を垂らし、表面を撫でているうちに発泡することがあります。
この原因には、リンスの不良や、すすぎ能力の悪い洗剤の使用、吸引機械の能力低下、リンサーノズルが適していない……などの原因が考えられます。 

日光焼け
ビルの高層階などで、窓から入射する日光によってカーペットが変色することがあります。
当然、防ぎようもない現象で誰の責任でもないのですが、作業担当箇所のどこで起こりうるか認識していないと、ビルメンの責任だと勘違いされてクレームが生じてしまいます。

汚れではない汚れ
照明器具からの光によってカーペットの上に落ちた影を、汚れと勘違いするケースもあり得ます。
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